12月の記録から(カプカプ新井一座マグカル講座、ろう者のオンガクを頭と身体で考えるサロン)等

写真:飯塚聡
写真:飯塚聡

 12月20日に、今年最後の「カプカプと新井一座に学ぶ 舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」が実施されました。今回は受講者(B班の皆さん)が自らプランを練り、全体の構造柱となるような導入部、ルーティンワーク、クールダウン部のファシリテーションに挑戦して頂きました。カプカプーズとの関係性も回を重ねるごとに柔らかな雰囲気となり、始終笑いの絶えない時間となりました。新井一座が担当したメイン部分では、クリスマスから年明けの行事をリアルに駆け抜けるような季節感や時間の流れを意識した内容となりました。LEDキャンドルや影絵をつかって美しい「光と影」の世界を楽しみ、最後にはみんなで声を合わせながら「人間除夜の鐘」がつかれていきました。ALSを罹患している新井さんの身体は徐々に自由が利かなくなってはいますが、だからこそアーティストならではの想像力の可能性が最大限に発揮されていきます。この場は「講座」の形式をとってはいますが、この1年間、新井さんの身体変化に合わせて柔らかく変わっていくチーム体制やカプカプとの関係性を知っていただくことが、もしかしたら受講されている皆さんにとって最も発見があることだろうと、あらためて感じています。次回は2月の開催になりますし、ここからまた新井さん&板坂さんのケアや生活スタイルの在り方も次の段階にシフトいくはずだと思っています。だからこそ、アートとケアがうまく響き合いながら、まだ誰も経験したことのないような新しい世界が生まれていくだろうと希望も感じています。引き続き、ご注目ください。

「カプカプと新井一座に学ぶ 舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」

(主催:センターフィールドカンパニー/神奈川県マグカル事業)

新井一座:新井英夫、板坂記代子、ササマユウコ、小日山拓也

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アートのような、ケアのような〈とつとつダンス〉2023年度活動報告会@東京芸術センター

海を越えた車椅子ワークショップ『ゆっくり歩く』
海を越えた車椅子ワークショップ『ゆっくり歩く』

 2009年に京都府舞鶴市の特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」のワークショップから生まれた、ダンサー砂連尾理さんを中心とした『とつとつダンス』。コロナ禍に苦肉の策で始めたオンライン活動が思いのほか広がり、今では鹿児島のみならず海を越え、マレーシアやシンガポールへと、静かな波紋のようにじわじわとダンスの輪が生まれています。3日に北千住・東京芸術センターで開催された2023年度活動報告会〈展示・パフォーマンス・トークセッション〉では、冒頭でシンガポールの認知症家族とつながったミラーリング(真似っこ)や、失語症の方のための〈インチキ語の会話〉などで場や関係性をほぐしていくオンライン・ワークショップの様子も〈公開〉されました。
 砂連尾さんの身体ワークは2012年に訪れた『たんぽぽの家』で頂いた「ケアする人のケア」の資料で注目しましたが、その後2017年に京都で開催されたアートミーツケア学会で実際にワークショップを受け、その後も直接お話を伺う機会がありました。「高齢者相手のワークショップは次が無いかもしれない」、一期一会であるという感覚を大切にされていることが、筆者がコロナ前まで10年続けたホスピスコンサートで得た感覚とも重なり共感がありました。
 現在の砂連尾さんは、カプカプ新井一座でご一緒しているALS車椅子利用者となった体奏家・新井英夫さん、その新井さんともプロジェクトを展開している今夏サントリーホールのサマフェスで唯一無二の場をつくっていたジャワ舞踊・佐久間新さんとも緩やかにつながる『ケアの身体の星座』のひとりだと認識しています。
●今回の活動報告会の詳細につきましては、主催一般社団法人torindoのサイトをご覧ください。この活動報告会ではアーティストを支える国内外の堅牢なプロデュース体制も大変印象的でした。以下は、個人的な感想から。

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「ろう者と聴者が共同する アジアのオブジェクトシアター」成果発表を観て

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「芸術未来研究場」展@東京藝術大学大学美術館

 卒論の追い込み中の娘とともに、藝大美術館で26日まで開催中の「芸術未来研究場」展を覗いてみました。「芸術が未来に効く!東京藝術大学は未来の社会のことをいま、本気で考えています!」と謳われたパンフレットと共に、「芸術未来研究場」で進められている産学官連携プロジェクトが多角的な視座から展示されていました。個人的には「クリエイティブ・アーカイブ領域」に展示された「聞こえない音をきく」に目が留まりましたが、別会場に参考文献として『音さがしの本』が展示されていたので、やはり着想はサウンド・エデュケーションだと解ります。「センサリー」に着目したプロジェクトも興味深かったです。

 「ケアとアート」の事例に関しては、まさに奈良のたんぽぽの家やアートミーツケア学会が長年提示してきた視座ともシンクロしています。正直言えば「後発」の印象ですが、「あの藝大」がケアを提示することに社会的な意義があるはずです。何よりも今の社会の空気、時代の変化を感じます。未来の芸術には社会とコミットする/逃避する、このアンビバレンスの調和が求められるのでしょう。

 学長の日比野克彦さん、未来創造継承センター長の毛利さんは80年代のアートシーンを牽引していたセゾン文化にもつながりますが(私の就職先だった)、先日の下北沢で遭遇したマガジンハウスの福祉の展示に続いて、この展示もあの頃からの「未来」です。まさに2012年度小泉文夫賞を受賞しているシェーファーが70年代に提示した「音楽、サウンドスケープ、社会福祉」の道筋。

〇公式サイト
https://www.geijyutsumiraikenkyujou2023.geidai.ac.jp/

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【時々更新】アート・コレクティブ「新井一座」だより(2023年度マグカル講座「舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」第2回記録)10/4実施

イラスト:小日山拓也 ※からだ木琴(足乗せ木琴)は打楽器奏者・永田砂知子さんから新井さんに伝授された古代奏法。
イラスト:小日山拓也 ※からだ木琴(足乗せ木琴)は打楽器奏者・永田砂知子さんから新井さんに伝授された古代奏法。

去る10月6日、第2回のカプカプ×新井一座「舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」が実施されました。第1回講座の記録はこちらからご覧ください。また今月25日に、東京芸術劇場社会共生セミナーにて、同じくカプカプでラジオワークショップを展開しているアサダワタルさん進行のもと、カプカプ所長・演劇ライターの鈴木励滋さん、新井一座から新井英夫、板坂記代子、ササマユウコが登壇し、「オモシロイ表現が生まれる場の関係性」を提示したオンラインレクチャーと対話の時間を共有しました。こちらの記録も併せてご覧ください。

 

 第2回目(B班)の10月6日は、1年の大きな節目となる9月のカプカプ祭りを終えた最初のワークショップということで、例年通り”クールダウン”の時間を目指しました。カプカプーズが馴染んでいるルーティンワーク、時間の流れやテンポを崩さずに、しかし後半では「舞台芸術」の基本とも言える大きな布をつかったワークを実施しました。みんなで広げた白い不織布を全身を柔らかく使って波立たせながら、その上で転がる小さな鈴の音に耳をすます時間が生まれました。またさらに大きなパッチワーク布を使っての、演劇的なアプローチも生まれていきました。かつて来日したイギリスの劇団テアトル・ド・コンプリシテの演出家サイモン・マクバーニーが「舞台芸術は椅子と布があれば十分に成立する」と話していたことを思い出します。それは「あそび」の基本とも言える。福祉の場だからといって芸術性を薄めるような「配慮」をするのではなく、アーティストの手元にあるアイデアや想像力を存分に分かち合う場として、カプカプーズの想像力やアイデアに心をひらく柔らかな心と体が求められる時間でした。

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第9回東京激術劇場社共生セミナー「ようこそ!ザツゼンとしたまじわりの表現世界~障害福祉と舞台芸術が根っこからながる話」終了しました。

 昨夜こちらのセミナーが無事に終了しました。アサダワタルさんからの「集合!」のもと、カプカプ所長で演劇ライターの鈴木励滋さん、体奏家・新井英夫さん、彼のALS確定診断後に有機的に変容するカプカプ新井一座から板坂記代子さん、そしてササマユウコが参加しました。昨年からはコミュニティ・アーティストの小日山拓也さんも一座に参加し(動画出演)、何よりもカプカプの鈴木まほさん、千葉薫さんをはじめ、実は関わる「みんな」が一座なのだとあらためて感じるひと時でもありました。

 今回は、気心知れた仲間が内と外の「境界」であるオンライン上に集い、自分たちがやってきたことを俯瞰する時間でもありました。舞台芸術と福祉が出会う場は、太古の洞窟から続く人間の営みと地続きにあって、同時に「今」の延長線上にある「未来」の芸術や福祉のかたちでもあるだろうと。だからカプカプの日常と非日常を切り分ける「舞台芸術」ではなく、日常を少しずらした異日常のワークショップが求められている。それは「よく生きるとは何か」という根源的な問いにつながっていくし、励滋さんはそのカプカプの試みを「カクメイ」と呼びましたが、大袈裟ではなく本当にその覚悟をもって臨んでいるからこそ、それが今まさに病と向き合う新井さんへのエールともなっている。

 もし時間制限が無かったら、あのまま朝まで語り明かせそうな(笑)密度の濃い時間でした。「何か面白いこと」が生まれる場や人の関係性が、少しでも次世代に伝わっていたらいいなあと思います(実は出演者間もひと回り以上の世代差があるし、まったく違う時代や国を生きてきたとも言えるので)。

 後日、文字情報アーカイブも公開されると思いますので、どうぞ引き続きご注目ください。ご視聴ありがとうございました。

 

【音楽・サウンドスケープ・社会福祉から】

 個人的に、この社会共生セミナーは2021年の第2回「もし世界中の人がろう者だったら どんな形のオンガクが生まれていた?」(牧原依里、雫境、ササマ)以来の登壇となりました。視覚障害者でもあったカナダの作曲家R.M.シェーファーが発見した知覚の境界に生まれる「サウンドスケープ」という世界。この「世界の捉え方」は音のある・ないに関わらず「場をきく力」になることを東日本大震災以来の活動のなかで実感しています。

 シェーファーは、視覚を補うために聴覚を鍛えることで自らの世界を調律したはずです。しかし、特に幼い頃から聴覚訓練を受けてきた音楽家は、むしろ「聴覚以外」の知覚を「ひらく」意識の方が必要だと感じています。音に厳しすぎると見えなくなってしまう世界がある。「耳だけ」の音楽はむしろ不自然ではないか。「きく」の多様性、場によって知覚の「ひらき方」を変える経験を積むこと。「音楽・サウンドスケープ・社会福祉」を提示したシェーファーの真意は、むしろそこにあると感じています。

またそんなお話もどこかで出来たらと。

【東京芸術劇場専用サイト】
https://www.geigeki.jp/performance/event314/e314-2/

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荒木珠奈展「うえののそこから はじまり はじまり」展@東京都美術館

 20年来の友人、荒木珠奈さん初の回顧展も後半に入りました。未見の方は是非おでかけください!実は我が家からも初期の小さな作品を出展しているのですが、この膨大な展示作品の中から、偶然それを写したダンサー新鋪美佳さんが「好きな作品」だと写真を送ってくれたのです。同じ世界に心惹かれる人の存在は嬉しいものですが、何よりこの偶然にはお互いびっくりしました。彼女が活動していたダンスユニットほうほう堂と珠奈さんには共通する世界観を感じていました。

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【時々更新】アート・コレクティブ「新井一座だより」(2023年度マグカル講座が始まりました)

イラスト:小日山拓也
イラスト:小日山拓也
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随時更新中【記録】サントリーホール・サマーフェスティバル2023『ありえるかもしれないガムラン』記録メモ(FBアーカイブ)

※この記事は〈音楽の生まれる場〉の関係性を「サウンドスケープ」と捉え直し、新しい音楽の聴き方、関わり方を提示しています。発見や気づきがあるたびに追記していくため初稿から変容していきますので何卒ご了承ください。時折覗いて頂けると嬉しいです。 最終更新日:9月18日

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クラウドファンディング『祝福へ 天と地の和解』を観て。

開催日時:2023年7月17日(月・海の日)14時~17時頃まで

場所:北区北とぴあ展示ホール

表現 : 新井英夫・安藤榮作・板坂記代子

舞台監督 : 御園生貴栄

制作 : 三ツ木紀英

撮影 : 阪巻正志・八幡宏

編集 : 阪巻正志

※以下、文中の敬称略は何卒ご了承ください。

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アートと福祉の交差点・カプカプ新井一座だより(2023夏至、世界ALSデー)

スケッチ(C)Takuya Kohiyama/小日山拓也
スケッチ(C)Takuya Kohiyama/小日山拓也
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創作楽器の世界、その可能性。『ふしぎな創作楽器展』Kajii創作楽器とストリングラフィの可能性(6/16)

Kajii創さんの手作り楽器たち
Kajii創さんの手作り楽器たち

日用品に新たな命を吹き込むユニークな手作り楽器たち。その中でもSNS動画や全国各地で人気のKajiiさんの創作楽器は、そのアイデアはもちろん、かたちの楽しさ、身近なモノから生まれる「音の意外性」が魅力だと感じています。今回『ふしぎな創作楽器展』が東京で開催されましたので、6月11日午後の回に足を運びました。会場となったのはコネクトとも縁の深いストリングラフィの拠点Studio Eveさんです。何より、糸電話から生まれたストリングラフィも作曲家・水嶋一江さんが発案した創作楽器です。この日の会場の様子はKajiiさんのブログや来場者のYoutube等で紹介されていますので、ぜひ映像付きでご覧ください。

 ここではコネクトの視点を交え、Kajii手作り楽器とストリングラフィ、ふたつの「創作楽器」がもつ可能性を軸に、少し視野を広げた「モノと音の関係性」についても思いを馳せてみました。そこから見えて/きこえてくるのは、音楽と美術の境界、音楽教育や音楽療法、コミュニティ・ミュージック、音楽の内と外を柔らかにつなぐ音楽の在り方そのものでした。

***

モノが楽器になるとき

 たとえば目の前にあるモノを指先で叩いたり擦ったりすると、そこにはかならず音が生まれます。モノの素材やカタチ、その手触りから音が変化することもわかります。モノとモノがぶつかっても音がする。それらの相性の良し悪し、関係性は音からもわかります。思いがけないモノが思いがけない音を出したとき、そこには小さな驚きや喜びも生まれます。すると「より良い音」を求めて、いつしか目に入るモノをすべて叩いてみたくなる。日常のなかに存在していた音風景、新しい世界の発見です。

 日常に存在するモノたちは音でもある。モノの風景とは音の風景なのです。それは全身の知覚で発見した「鳴り響く森羅万象 Sonic Universe!」とも言えるでしょう。ちなみにKajiiさんという不思議な名前には「日常生活の中から(家事)、工夫して楽器を作り(鍛冶)、新しい風を生む(風)」という3つの意味が込められているそうです。彼らもまた音を通して日常のなかに潜む新しい世界を探求しています。

 この日に展示されたのは、150種類以上あるという楽器の一部でしたが、彼らが目指す世界観はよくわかりました。ペットボトルや空き缶、折れたスティックや文房具、創作楽器の素材は日用品や「ゴミ」です。そこに新しい命が吹き込まれている。一見すると美術作品のようなモノもありますが、Kajiiさんの説明とデモ演奏を聞いて、これらのモノたちは確かに「楽器」なのだと解ります。つまり「音」や「音楽」や「音風景」を生むために創られたモノだということです。

 創作楽器とは何か。それは音楽と美術の境界に生まれるモノだと思います。美術家が創る手作り楽器もあります。視覚(美術)と聴覚(音楽)どちらの世界から生まれたのか、実は同じペットボトルの楽器でも佇まいが違うと感じています。ちなみにもともとドラマーだったというKajii創さんは、食器を「演奏」したことをきっかけに創作楽器の面白さに目覚めたそうです。食器という日用品に潜む音を発見する驚きや喜びがある。これはマリー・シェーファーが「音さがしの本」の中で提示した世界の発見にも通じます。
さらにKajiiさんの楽器には「ゴミ」が使われていることにも注目したいと思います。ゴミとは何か。使われなくなったモノ、壊れてしまったモノ、使い古したモノ、ペットボトルのキャップなどはじめからゴミとなる運命にあったモノなどです。これらに意外性のあるアイデアが加わってオリジナルな楽器として生まれ変わっている。これは美術の世界の「クリエイティブ・リユース」という考え方にも通じます。単なるゴミの再利用ではなく、創作性(クリエイティビティ)に富む『リユース』なのです。ファッション等で使われる「アップサイクル」の方が伝わるでしょうか。「より良い音」を目指した結果、「より良いモノ」へと生まれ変わる。モノから楽器への再生です。

 だからと言って(表現が少し難しいですが)、音楽家の手仕事は職人の「匠」とは違うのです。音楽にとっての「より良いモノ」とは、あくまでも「より良い音」のことだからです。モノに内在する音を引き出す工夫もあれば、素材を組み合わせること、奏法を開発することで発見された音の秩序もある。いずれにしてもその音が「楽器」として、ノイズも含めて美しいという特徴があります。

 だからKajiiさんの楽器には美術作品ならば消すような継ぎ目、仕上げのプロセス、試行錯誤の時間の跡も残されている。その跡は音や演奏、つまりKajiiさんの目指す「音楽」には影響がないことがわかります。「これは美術作品ではなく楽器です。どうぞ気軽に触れてみて」と、モノが自ら語りかけてくるような素朴な佇まいがあります。この飾り気のなさがKajii楽器の個性、親しみやすさ、楽しさでもある。会場で初めて楽器を目にする子どもたちも臆することなく自然に音世界へと入っていく姿が印象的でした。そして夢中になって楽器を鳴らしていきます。

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『ワールド・クラスルーム 現代アートの国語・算数・理科・社会』@森美術館

 4月19日から9月24日まで、六本木・森美術館の開館20周年記念展として『ワールド・クラスルーム 現代アートの国語・算数・理科・社会』が開催されています。(会場ではタイトルに音楽、体育、総合が加わり全8教科になっています)。

 チラシの解説には「90年代以降の現代アートは世界の多様な歴史や文化的観点から考えられるようになり、学校の授業の図画工作や美術といった枠組みを遥かに越えた、あらゆる科目に通じる総合的な領域として捉えることができるものになりました」と書いてありました。確かに、世界そのものを探求しようとする現代アーティストたちは、音楽や科学や数学といった多様なジャンルの手法で作品を提示するようになっています。言い方がよくないですが、コンセプトにアート性があれば音楽、映画、小説など「何でもあり」とも言えなくはない。実際に今回の展示でも30分前後の映像作品が多く、各作品のストーリーを丁寧に鑑賞するには3時間近くが必要となりました。さながら長編オムニバス映画を観ながら、立体や平面作品を鑑賞しているような状態です。中にはネット上で鑑賞できる映像もありましたが、それで済むならば美術館に展示される意味とは何でしょう。映画と現代アートの違いや鑑賞方法がよくわからず、正直悩ましいと思いました。

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Re:Signing Project『聴者を演じるということ 序論』記録@北千住BuOy

 5月5日は、北千住BUoyで開催された『〜 視覚で世界を捉えるひとびと』(主催Re; Signing Project)に伺いました。
 視覚や手話をテーマにした実験的なギャラリー展示に加えて、地下スペースでは舞台《聴者を演じるということ 序論》が上演され、初回を拝見しました。この作品は映画『LISTENリッスン』共同監督の牧原依里さんが演出、雫境さんが舞台監督を担当し、「ろう者が聴者を演じる」という今までにありそうで無かった設定です。

 ろう者と聴者の世界を反転すると、そこに「声」や「身体」の差異が立ち現れますが、さらにその先に目を向けると「演じるとは何か」「それであることと、それっぽい事の違いとは何か」という哲学的な問いも生まれます。聴者がろう者を演じる際には躊躇なく拙い「手話」を使用しますが、ろう者が演じる聴者の「声」には違和感を持ってしまう。そこにマジョリティとは何かが突きつけられます。

 実際、この舞台を観ているろう者にとっては最初から「声」は必要なく、「声で話しているように見える」だけで十分なのです。ということは、この舞台はろう者と聴者をつなぐ「対話の種」でもあり、聴者自身が「聴者とは何か」を考える場でもある。プロジェクトの目的には「ろう者・聴者ともにアイデンティティ・関係性の再構築を試み、様々な芸術表現を包括できる場でありたい」とも記されています。舞台の感想は、ろう者と聴者の観客の割合でも違ってくるでしょう。実験的なワークインプログレスとしても面白い経験でした。

 

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【講師の記録⑤】福祉と舞台芸術をつなぐコーディネーター・ファシリテーター養成講座(2022年度最終回)

記録①→「はじめに」10月

記録②→「現場実習:団地のピロティ編」11月

記録③→「横浜市の地域ケアプラザ編」2月

記録④→「祝祭編」3月

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日本音楽即興学会(JASMIM)ジャーナルVol.8が発行されました。

【ご案内】日本音楽即興学会ジャーナルvol.8が発行されました。この学会は「即興」をテーマに、創作、音楽療法、音楽教育、サウンドスケープ、ガジェット等さまざまな分野が交錯するユニークな存在です。ジャーナルも学術的な査読論文のほか、査読なしの書評やエッセイ、音楽教育やコンサートの実践報告など「即興」をテーマにした知見を自由に発表できる雰囲気が魅力です。この「即興カフェ」では第8回に助成もいただきました。

 今回は昨年夏の自らのコロナ療養中に、2020年からの個人活動の記録(エッセイ)をまとめて掲載して頂きました。「即興」という力は時代の変化にどのように響き合うか。そもそも自分はなぜ「即興」を学び、考えてきたのか。緊急事態宣言が長引き先が見通せない中で、変化を恐れるのではなく一期一会の「即興音楽」のように時間を過ごしていましたが、通り過ぎてしまうとあっという間に日常に戻り、忘れてしまう感覚だとも思いました。

 だからこそ、生きることを文字にして記録する大切さにも思いを馳せました。それは「なぜ即興音楽なのか」という問いに対する、ひとつの答えでもあります。特に現在進行性の難病と向き合っている新井英夫さんを始め、活動にご参加頂いたアーティストや研究者の皆さま、学会の皆さま、ありがとうございました。

密度の濃い時間でした。

(ササマユウコ)

https://jasmim.net/jasmim_journal/

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「ろう者のオンガク」の当事者研究「育成×手話×芸術」2021年度報告書が公開(2/2)

 社会福祉法人トット基金が文化庁より委託を受けた「2021年度国際芸術祭実施に向けてのろう者の芸術活動推進事業」の活動をまとめた「育成×手話×芸術プロジェクト報告書 2021」を公開しました。ここではササマユウコの研究テーマでもあるオンガクを主にご紹介しますが、演劇、オンガク、美術、映画分野の活動が報告されています。サイトよりPDFダウンロードできますので是非ご一読ください。

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牧原依里監督『田中家』~東京国際ろう映画祭「視覚の知性2023」@恵比寿映像祭2023より

牧原依里《田中家》2021年/60分/サイレント/日本手話(日本語字幕・英語字幕) ©deafbirdproduction 2021恵比寿映像祭2023サイトより引用
牧原依里《田中家》2021年/60分/サイレント/日本手話(日本語字幕・英語字幕) ©deafbirdproduction 2021恵比寿映像祭2023サイトより引用

はじめに
 「ろう者の音楽」を世に問い話題となったアート・ドキュメンタリー『LISTEN リッスン』(共同監督:雫境、牧原依里)の公開から早7年。牧原依里監督の新作『田中家』が恵比寿映像祭2023プログラム「東京国際ろう映画祭 視覚の知性2023」の中で上映されました(於:東京都写真美術館)。この作品はコロナ禍の東京国際ろう映画祭2021で公開され、チケットが即完売となる注目作でした。
 以下は、当日上映後の監督トークをふりかえりながらの鑑賞記録です。映画の解説については監督本人による動画(東京国際ろう映画祭2021)をご紹介します。

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【記録③】舞台芸術と福祉をつなぐコーディネーター・ファシリテーター養成講座(横浜市・地域ケアプラザ編)

久しぶりの新井英夫さんとの再会にカプカプメンバーも嬉しそう
久しぶりの新井英夫さんとの再会にカプカプメンバーも嬉しそう

〇第1回の記録はこちら→

〇第2回の記録はこちら→

 かながわ芸術文化祭(マグカル)事業としてカプカプで実施されている「舞台芸術と福祉をつなぐコーディネーター・ファシリテーター養成講座」。12月に予定されていた内容は急遽クリスマス音楽会となり(3月に延期)、2月1日に第3回講座が無事に実施されました。
 ここは講師を務めるアーティスト視点の記録です。公式記録映像や事務局側の記録も別途ご紹介されると思いますので、是非多角的な視点からご覧ください。
 今回は11月以来のカプカプーズ全員集合となり、終了後のふりかえりトーク(講師、受講者、カプカプスタッフが参加)がとても充実していましたので、全体の流れと共に内容を記録しておきたいと思います。

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