空耳図書館おんがくしつ♪「きのこの時間」を実施しました。

 去る7月18日、平日朝の明治神宮で空耳図書館おんがくしつ「きのこの時間」を実施しました。この日はサウンドスケープの提唱者M.シェーファーの誕生日に因んだ「World Listening Day」。毎年「Global Community Event」としてAcoustic Ecology(音響生態学)を掲げるアメリカの非営利団体からWorld Listening  Projectの「テーマ」が発表され、世界各国でテーマに沿ったイベントが自発的に実施されホームページやSNSでシェアされます。参加資格も特になく、サウンドスケープのオープンな思考に共感し主旨に賛同した人たちが、音楽/アート、環境学、フィールドレコーディング等、さまざまな領域の境界から自由に参加できる「祭典」です。
 2019年のテーマは「LISTENING WITH」。コネクトでは案内役を「小日山拓也(美術)×ササマユウコ(音楽)」が引き受け、参加者と共に「きのこのある風景」を「みるきく歩く」イベントを明治神宮で開催し世界の仲間たちとシェアしました。単なるきのこ探索ではなく、共に「みるきく考える=美術×音楽×哲学散歩」の時間です。歩き始める前に「内と外」がデザインされた「人工の森・明治神宮」を地図で俯瞰し、地形の起伏も意識しながら森のサウンドスケープ(周辺環境音も含む)をききながらのキノコ散策が始まりました。
 今年は長雨が続いたせいもあり、歩き始めると直ぐに次々と森のきのこが見つかりました。最初は「発見する喜び」に夢中になり「きのこそのもの」にフォーカスする時間が続きました。聞こえてくるサウンドスケープも原宿駅構内のアナウンスや電車の音、車の音や工事音等、視覚的には鬱蒼とした静寂の森が都会にあることを意識させられます。しかし「森の中心部=内」に入ると周辺のサウンドスケープが神聖な雰囲気へと変化し、きのこの「存在」にも新たな物語性が出てきました。静かな場所を選んで生息しているのか、音を聞いているか?といった擬人化です。時には「親(木)」を殺してしまう恐ろしい子どもにも見えてきました。
 個人的に興味深かったのはLISTENING WITHの「WITH」には「きのこ」も含まれていたということです。あとは「参加者ときのこの関係性」がそれぞれ違っていた点も視点が多角的になり様々な発見がありました。あくまでも「日常の延長線上」のリアルな存在として捉えている人、想像や思考のきっかけとして、芸術そのものとして捉えている人、「食べ物」として見ている人など。同じ世界でも内と外の境界線の引き方は様々です。それは実は世界に通じる「人間ときのこの関係性=文化」とつながることも参加者同士の対話から共有されていきました。さらに美術の世界の「みる」には、サウンドスケープの「きく=耳をひらく・耳をすます」と同様に「周辺的観察(目をひらく)/集中的観察(目を凝らす)」ような違いがあるという発見でした。それは時間の流れとも関係していて、最初はきのこに集中していた視点が徐々に広がり、きのこと周辺の関係性を読み解く見方に変っていきました。さらに理系・文系ふたつの世界、対象の認識方法が曖昧に混在していたように思います。これこそが、まさに芸術的。
 もともと西洋文化圏でのきのこは「野菜未満」とされ静物画の対象にも選ばれにくく、魔女と結びつけて忌み嫌う人もいればラッキーチャームになったり、狂言の「くさびら」のように異界の存在としても描かれます。しかもきのこは食用にも猛毒にもなる。現代の定義では人間もきのこ(菌類)も同じ「生き物」として分類されることも興味深いです。この境界領域的なキノコの存在感は「話題提供者」として本当に事欠きません。特に「キノコ=音」と例えた時、きのこのある風景を「みる」ことはサウンドスケープ思考の「きく」と同義で、非常に「耳の哲学」的だと思いました。予想以上にWorld Listening Dayにも相応しい企画になったのではないでしょうか。
 ちなみにM.シェーファーが影響を受けた現代音楽の巨匠J.ケージはキノコ愛好家(研究者)としても知られています。彼の著書『サイレンス』(柿沼敏江訳 水声社)の最後には「キノコに熱中することによって、音楽について多くを学ぶことができる。私はそういう結論に達した。」と記されています。確かに森の中にひっそりと存在するキノコたちの豊かな世界に気づくことは、日常と非日常をつなぎ、ミクロコスモスとマクロコスモスを行ったり来たりするような視点のダイナミズムが生まれ、とても芸術的な体験だと思いました。さらに「音楽とは何か」を考えた時、毒にも薬にもなる存在、周辺との関係性、外観の美や醜、そして何より「生から死まで」を比較的短い時間で凝縮して提示する在り方が何とも音楽的だと思うのでした。

 この夏の長雨もキノコたちから世界を見ることで少しも憂鬱になりませんでした。日常と非日常の間に位置し、想像力をかきたてるキノコの存在はまさに芸術や音楽と同じなのかもしれません。

 

We searched mushrooms and listened soundscape of urban forest in TOKYO. This was world listening day project 2019'LISTENING WITH' at 17/07/2019.


◎次回「きのこの時間」は10月21日(月)新宿御苑で開催します。詳細はFacebookで告知いたします。

ササマユウコ
芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表
1964年東京生まれ。2011年の東日本大震災以降、サウンドスケープ論を「耳の哲学」に世界の内と外を思考する音楽家。