「おとなの空耳図書館 やってみましょう!哲学カフェ」を開催しました。

 去る17日の日曜日に「おとなの空耳図書館 やってみましょう!哲学カフェ」をユニコムプラザさがみはら・マルチスペースにて開催しました。進行役に寺田俊郎先生(カフェフィロ設立メンバー、上智大学哲学科科長)をお招きして、空耳図書館の推薦図書『哲学カフェのつくりかた カフェフィロ編』(鷲田清一監修、大阪大学出版会)と共にご紹介しました。

 コネクトではこの5年間、音楽×哲学カフェとして「即興カフェ」を開催していますが、対話だけの「哲学カフェ」は初めての試みです。正直、参加者が集まるのかも不安でしたが、蓋を開けてみればじっくりと対話するのに「ちょうどいい」10名の性別や世代を越えた参加者が集まって、アットホームながらも深い対話が繰り広げられていきました。

何の制約も無く自由に考えを語る場。世界の多様性が見えてきます。
何の制約も無く自由に考えを語る場。世界の多様性が見えてきます。

 今回は「入門編」ということで、まずは寺田さん(先生と呼ばない)の活動紹介⇒カフェフィロ、推薦図書のご紹介⇒「哲学カフェ」についてのミニレクチャー⇒約1時間40分の「哲学カフェ」体験⇒質疑応答という2時間少しの流れになりました。この日の「対話」は特に「自己紹介」はせずに、名前だけでなく職業や肩書等も一切問いません。寺田さんも「私の考えは述べませんので皆さんで自由に話してください」と最初に宣言されていました。

 ただし「まずは発声練習」として、参加動機や「哲学カフェ」の印象についてひとりづつ短い時間が与えられました。「’哲学’って怖い??」「もともと日常に哲学があってもいいのでは?と思っていた」「90歳を過ぎた母の言葉が最近’哲学’に聞こえる」「空耳図書館って何?」「響く言葉の使い方を学びたかった」「SNSで不特定多数の人と言葉を交わしている今の時代に、ある考えをもとに対話が成立するのか?」「人生で重大な決断をする時に役に立ちそう」「言葉にならないものを言葉にしようとする作業だと思ったから」などなど、まさに十人十色の参加動機が語られていきました。

 この日の対話の「問い」(なるべくワンセンテンスのテーマ)は進行役と皆さんとの協議で決められていきました。「問い」の前では老若男女、上下なく「人間関係がフラットになる」と寺田さんが説明されていたのが印象的でした。なぜなら哲学の「問い」には正解が無いからです。そこで扱われるテーマがたとえ身近な問題であったとしても、考えに考えていくと必ず哲学者たちが長い時間をかけて問い続けてきた「哲学的な問い」に突き当たるといいます。例えば「義理チョコは必用か?」と考え始めても、その先には「規範」「固定観念」「社会」といった哲学の世界ではお馴染みの言葉が見えてくる。無意識に囚われていたかもしれない「何か」に気づく瞬間があるそうです。

カフェが終了しても寺田先生と参加者の交流が続きました。
カフェが終了しても寺田先生と参加者の交流が続きました。

 この日のテーマは、ある参加者の「実感」がきっかけとなり、「人は子孫を残すべきか?」に決まりました。これは空耳図書館的には予想外のテーマでしたし(笑)、それもまた哲学カフェの面白いところです。
 対話はまず「子を残すこと」は「良いことか」か、反対に残さないのは「悪いこと」なのか?という二項対立から始まりました。そこから社会的な固定観念、この星の生物の「ひとつの種」としての人間、子を残す「意味とは何か」へと広がり、「生きる」「幸福」「存在する」「自由」とは?と、哲学的な問いのオンパレードとなったところで、ふと「個人の人生」に戻される瞬間があったり、とてもダイナミズムある対話となりました。

 将来が見え難い時代の過渡期の中で、数多ある選択肢の中から「自由に」選んだはずの生き方に誰もが漠然とした迷いや不安を抱えている。予想もしなかった時代の価値観の変化は、個人が置いてきぼりになったような空しい気持ちになる。だけどそれはきっと「いつの時代に生きても」そうだったに違いなく、それが「生きる」ということなのかもしれないとふと思いました。「人間がこの地球上から絶滅してしまったら?」という問いかけに、「それでもいいじゃない?」という言葉がふっと気持ちを楽にさせ、反対に「きっと寂しいと思う」という呟きに思わず参加者全員がうなずく瞬間がありました。どちらも印象的な場面でした。
 哲学カフェの対話は音楽の即興セッションとも似ていて、対話に心地良いグルーヴ感が生まれる瞬間があります。ただしその心地良さに身を任すだけでなく、あえて立ち止まり、後戻りし、また最初から考え直してみる、予定調和にしない。音楽と哲学の「時間」や「思考」の似て非なるところです。そしてこの進行役の「交通整理」が、ただの「おしゃべり」の時間を哲学的な対話へと変えていく。何より最初に提示された「3つのルール」、自分の言葉で話すこと、他者の考えに耳を傾ける(きく)こと、そして自分の考えが変化することを受け入れることの意味がわかってくる。その時間をじっくり味わうことこそが「哲学カフェ」の醍醐味なのです。

 「自分はこんなことを考えていたのか」と、他者に伝えようと言葉にして初めてわかることがある。自分の気持ちを代弁してくれたような誰かの意見に救われたり、反対に違和感を持つことで自分の考えを確かめることもある。「名前も知らない人たちとの対話」だからこそ話せることもある。そして最後はモヤモヤして帰る(笑)。始めて参加された皆さんも楽しんでいただけたのではないでしょうか。個人的には言葉と音楽の「違い」にますます興味が沸きました。
進行役の寺田さん、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。(サ)

※寺田先生の哲学カフェも、不定期ですが引き続き開催していく予定です。


2019年6月で活動6年目となるコネクトは、小学生で言えば卒業年にあたります。最終学年は芸術と学術を「つなぐ・ひらく・考える」の「考える」に焦点をあてて、空耳図書館では毎回「推薦図書」をご紹介しながら「場」を作っていけたらと思っています。

 こちらのホームページ、そしてFacebookで情報を告知していきますので引き続きご注目ください。

 またカフェフィロホームページでも、各地域の哲学カフェ情報が掲載されています。進行役や地域によっても雰囲気が違いますので、是非いろいろなカフェに参加してみてください。


【空耳図書館2019 はるやすみ推薦図書】


ササマユウコ (音楽家・コネクト代表)

1964年生まれ。2011年の東日本大震災・原発事故を機に、サウンドスケープを「耳の哲学」に世界のウチとソトを思考している。アーティストと研究者がフラットな関係性を築き、そこからオルタナティブな「知」を発見する芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト設立・代表。

 都立国立高校、上智大学文学部教育学科(教育哲学、視聴覚教育)卒業後、一芸入社(音楽)でセゾン文化・メディア担当(映画)、出版社、公共劇場スタッフと併行して2000年代はCD6作品を発表。2011年、町田市教育委員会生涯学習部市民大学講座企画担当、弘前大学大学院今田匡彦研究室(2011~2013サウンドスケープ(哲学)、サウンド・エデュケーション)
□詳細は個人ホームページにて ◎
ワークショップ、レクチャー、執筆のお問合せなど  tegami.connect@gmail.com